2013年7月23日火曜日

羊皮紙とお歯黒

日本に紙の製法が伝わったのは、記録によれば610年となっています。
しかし、ヨーロッパに紙が伝わったのはかなり遅く、
1151年にスペインに伝わったのが最初だそうです。

紙のなかった時代、アラブやヨーロッパで使われていたのが羊皮紙です。
しかし、紙が作られるようになってからも、法律関係などの重要な書類は引き続き
羊皮紙に書かれて保存されていました。

写真は、イギリスの古本市でみつけた羊皮紙に書かれた不動産登記の書類です。
書かれたのは1874年となっています。
2枚の羊皮紙が折って綴じられていて、2001年当時お値段は£5でした。

うまい字ですよね。
これ全部手書きなんですから、凄い。
文字を間違えた場合はその部分を削って上から書いてたりします。

で、これ、何のために買ったのかと言えば、
この、ギルディング・パッドにつける箔の風よけにしようと思ったのです。
しかし、文字があまりにうまくて、切ってしまうのも勿体ないので、
結局そのまま持っているのです。

さて、本題。
この羊皮紙に使われている焦げ茶色のインクの作り方です。
これは元々は焦げ茶でなく、真っ黒なインクでした。

これは、Gall nutsまたはOak Applesという、ムシコブタマバチという虫が
オークなどの木に卵を産むとできる虫瘤です。
日本語では没食子(もっしょくし)と言うそうです。
これはドイツのKremer Pigmenteで購入したものです。


中を割ると、やっぱり蜂のようなものがおります・・・

これには没食子酸(gallic acid)が多く含まれており、これと水、鉄粉を混ぜると
鉄と酸が反応し、黒いインクのできあがり、というわけです。

で、ここまで読んで何かと似てるなと思われる方もおられるでしょう。
実はこれは、お歯黒の作り方とほぼ同じなのです。

お歯黒の場合は、日本には没食子がありませんので、
同じ性質を持つ五倍子(ふし)が使えます。
これは、ヌルデにヌルデシロアブラムシが寄生することでできる虫瘤です。

五倍子は、染色用品販売店で購入ができます。

左が五倍子、右が没食子です。

中を割ると、これも虫がいたような粉が入ってます。

さて、これを水に入れ、この瓶の下にある鉄の表面の錆を削って
混ぜてみました。

光に透かすと、こんな感じで茶色で透明です。
茶色は五倍子の色です。

で、翌日

瓶の中の液体から泡が出て、黒くなっています。

ピンボケですが、透かしても黒いのがおわかりでしょうか?

元の五倍子と比べるとこんな感じです。
これを漉したら黒インクのできあがりです。

文献によればこれを生漆に入れてくろめると呂色漆ができる、
・・・はずなのですが、
くろめ方がまずいのか、お歯黒の量が適切でないのかまだ成功していません。

五倍子インクの作り方は、
羊皮紙工房さんのサイトに詳しく出ています。

科学的にも羊皮紙と相性がよいようですが、
年月を経ると黒から焦げ茶に変化します。
これは、漆の呂色も同様ですね。

お歯黒の作り方はいろいろあり、
錆びた鉄釘に古くなった焼酎を熱して注ぐ方法、
酢と鉄釘で作る方法、
柿渋と鉄で作る方法などもあります。
柿渋にも同じgallic acidが含まれているのです。
タンニンと没食子酸についてなどはここに詳しく出ています。

ところでいつも思うのですが、時代劇でも映画でも、
歯を黒く染めた女性ってほとんど出て来ませんよね。
現代の女優さんが歯を黒く染めてまでリアルさを出す必要がないということか、
しかし、それを想像しながら時代劇を見ると
ちょっと面白いかもしれません。

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